会社を経営する方の遺言は、家族のためだけのものではありません。社長が遺言を残さずに亡くなると、自社株は相続人全員の共有になり、会社の決議が止まることがあります。自社株を継ぐ人に渡す遺言の書き方と、書く前に確かめること、富山で作るときの窓口を整理します。
1|遺言がないと、自社株は相続人全員の共有になる
遺言がなければ、社長名義の自社株は、遺産分割がまとまるまで相続人みんなで持ち合う形になります。この間に株主総会で票を投じるには、原則として、相続人の中から代表の1人を選んで会社に届け出る必要があります。
相続人の意見が割れて代表が決まらないと、取締役を選び直すことも、決算を確定させることもできない状態が続きます。そのとき会社が取る手順は、株式会社トマックの「社長が急死したら」にまとめています。
遺言で株の受け取り手を指定しておけば、遺産分割の話し合いを経ずに、その人が株を引き継げます。株主名簿を書き換えれば、すぐに株主として動けます。経営者の遺言は、会社を止めないための備えでもあります。
後継者がまだ決まっていなくても、遺言は書けます。株を受け取る人と、会社を売るか継ぐかを判断する人を決めておくだけでも、残された家族の迷いは減ります。
出典:e-Gov法令検索「民法」(第898条)「会社法」(第106条)
2|書く前に確かめる3つのこと
遺言で渡せるのは、社長がいま持っている財産だけです。書く前に、次の3つを確かめます。
- 株主名簿:社長の持株数と、ほかの株主。先代の名義のままの株や、親族に分かれた株がないか
- 定款:株式の譲渡制限と、相続した人に株の売渡しを求められる定めがあるか
- 会社とのお金と不動産:会社への貸付金、会社が使う社長名義の土地・建物、経営者保証
定款に売渡しを求める定めがあると、会社は相続を知った日から1年以内なら、相続した人に株の売渡しを求められます。遺言で後継者に渡した株も対象になりうるため、定めの有無を先に確かめます。
社長が会社に貸したお金は、相続では貸付金という財産になります。工場や店舗の土地が社長名義なら、それも遺産です。株と一緒に後継者へ渡すかを決めます。
社長の個人保証は、亡くなっても消えず、相続人に引き継がれるのが原則です。遺言だけでは外せないので、金融機関との見直しも並行して考えます。
出典:e-Gov法令検索「会社法」(第174条・第176条)
3|自社株を継ぐ人に集める書き方
遺言では、どの会社の株を何株、誰に相続させるかを特定して書きます。「会社のことは長男に任せる」のような書き方では、何を渡すのかがはっきりしません。
- 会社名と株数(または保有するすべての株式)と、相続させる人
- 会社への貸付金や、会社が使う不動産を誰に渡すか
- 遺言の内容を実現する遺言執行者
- 後継者が先に亡くなったときの、次の受け取り手
- なぜこの分け方にしたのかを伝える、付言の一文
遺言執行者を決めておくと、株主名簿の書換えの請求や預金の手続きを、執行者が進められます。
株を後継者に集めるなら、ほかの相続人には預金や自宅など、別の財産を充てる形を考えます。株の価値が大きいほど、この釣り合いが難しくなります。
ほかの相続人の遺留分
株を後継者に集めると、ほかの相続人の遺留分にかかることがあります。遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人に法律が残す最低限の取り分です。
遺留分の請求は、2019年7月から金銭で行う仕組みです。株は後継者の手元に残りますが、支払うお金の手当てが要ります。
相続人への生前贈与も、相続開始前10年間のものなどが計算に入ります。請求の期限は、侵害を知った時から1年、相続開始から10年です。
生前贈与した自社株は、経営承継円滑化法の特例で、遺留分の計算から外す合意もできます。推定相続人と後継者の全員が書面で合意し、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可を受けます。
出典:e-Gov法令検索「民法」(第1012条・第1042条・第1044条・第1046条・第1048条)/中小企業庁「遺留分に関する民法特例のポイント(会社向け)」
4|自筆か公正証書か|富山で作るときの窓口
| 方式 | 作り方 | 富山の窓口 |
|---|---|---|
| 自筆証書遺言(法務局で保管) | 全文・日付・氏名を自書して押印。財産目録はパソコンで作れる(各ページに署名押印)。保管の申請は1件3,900円で、予約のうえ本人が出向く | 富山地方法務局(住所地・本籍地・所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所) |
| 公正証書遺言 | 証人2人の前で内容を伝え、公証人が作る。公証人が病院や自宅へ出張することもある | 富山公証人合同役場(富山市安住町)/高岡公証人役場(高岡市芳野)/魚津公証人役場(魚津市駅前新町) |
法務局に預けた自筆の遺言と公正証書遺言は、家庭裁判所の検認が要りません。証人には、推定相続人や財産を受け取る人、その配偶者などはなれません。
遺言の方式を見直す改正民法が、2026年6月に成立しました。自筆の遺言の押印は任意になり、パソコンで作って法務局に預ける新しい方式もできます。
会社に財産を遺す遺言では、その会社の役員や従業員も証人になれなくなります。施行は公布から1年以内(新しい方式は3年以内)で、日付はまだ決まっていません。今書くなら、今の方式で作ります。
出典:法務省「自筆証書遺言書保管制度のご案内」「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」/日本公証人連合会「公正証書遺言の作成手順」「公証役場一覧(富山)」
5|トマックがお手伝いすること
財産の一覧づくりや自筆の遺言の下書きは、ご自分で進めていただけます。トマックがお手伝いするのは、自社株をどう渡すかの判断が要るところです。
- 株主・会社との貸し借り・事業用の不動産を一覧にして、遺言で決めることを整理する
- 遺留分を確かめ、生前に渡す株と遺言で渡す株の分け方を、ご家族の事情に合わせて組み立てる
- 遺言書の文案づくりと、公証役場との打合せを支援する。ご希望により遺言執行者もお引き受けする
判断能力が衰えると、遺言は作れなくなります。相続で専門家に頼む場面の見分け方は「相続手続きは自分でできるか」で整理しています。
後継者が決まっていない方や、会社を売ることも考えている方は、グループの株式会社トマックにご相談いただけます。相手を探す前にできる下準備は「3〜5年後に会社を手放す社長へ」にまとめています。進め方は「事業承継・M&Aのご案内」に載せています。
行政書士法人トマックは、富山県行政書士会に所属しています。富山市をはじめ県内どこからでもご相談いただけます。遺言のご相談の流れは「相続手続き・遺言のご案内」に載せています。
※ ご相談の窓口は行政書士法人トマックが務め、提携する士業専門家と連携して進めます。
※ 本記事は2026年10月時点の法令と公表資料にもとづいています。制度の内容や手数料は変わることがありますので、手続きの前に各窓口でご確認ください。